筆者は昔、やや高めのパンチェーン店でアルバイトをしていました。そのパン屋で、新商品が発売されることになったのですが、店長が話していた説明はこのようなものでした。
「比較的高めの価格帯でやってきたが、それだけでは支持を得られない。新しい価格帯の商品に挑戦する」
自然派信仰の強い家で育った筆者は、なにかを買う前、食べる前にはほぼ必ず原材料表示を見る習慣がついてしまっています。そのときも、新商品の原材料表示を見ました。すると、これまでの食パンはバターを使っていたのが、マーガリンに代わっていたのです。
バターを使うとやはりコストが高くなってしまうため、スーパーで売っている大手メーカーの食パンに使われているのは、ほどんどマーガリンです。今回は、この「安いパンにはマーガリンが使われる」法則について紹介します。
スーパーのパンはほぼ全てマーガリン
筆者は、パンに必要な最低限の原材料以外が使われているパンは基本的に買いません。しかし、毎度専門のパン屋さんに行くのも大変ですから、スーパーで買うこともあります。
一人暮らしを始めてから常にパンを裏返して成分表示を確認してきた筆者の知る範囲では、コンビニやスーパーにバター製のパンが売っていることはありませんでした。
マーガリンが嫌われる理由は、生クリームの代用として使われる植物性油脂由来のホイップクリームと同じです。
バターは自然な製法で固体になりますが、マーガリンはそれに似せて工業的に作られた商品です。パーム油や菜種油といった、揚げ物に使われるような油を無理やり固体に加工したもので、価格はかなりお安くなっています。
加工の際に「トランス脂肪酸」という健康に悪い物質が発生するので、体に良くないとされているのです。
バターとマーガリンの価格の差
バターとマーガリンにはどれくらい価格差があるのでしょうか。
イオンネットスーパーでバターとマーガリンの価格の差を調べてみました。
商品名 | 価格 |
雪印メグミルク 北海道バター 200g | 433円 |
雪印メグミルク ネオソフト 300g
|
276円 |
バターの価格がどれぐらいパンに影響する?
パンの成分配合については詳しくないので、パン職人さんのブログを参考にしてみました。
それぞれの原価はこのようになるそうです。
材料 | 内容量 | 価格 | 材料1gあたりの原価 |
小麦粉 | 1kg | 500円 | 500/1000=0.5(円/g) |
砂糖 | 1kg | 300円 | 300/1000=0.3(円/g) |
塩 | 500g | 200円 | 200/500=0.4(円/g) |
イースト | 20g | 400円 | 400/20=20(円/g) |
水 | (今回は0円) | 0(円) | |
バター | 150g | 450円 | 450/150=3(円/g) |
イーストが高いというのは知りませんでしたが、バターはイーストに次いで非常に高い割合を占めますね。
ここまで影響するのでしたら、確かにマーガリンにしてコスト削減したくなるかもしれません。
マーガリンのパンとバターのパンを食べ比べ
マーガリン使用の新製品が出たのと近いタイミングで、アルバイト先で研修がありました。
ヤマザキは眼中にないようでしたが(笑)、パスコについては、「この品質のものをあの価格で出されると焦る」というような話をしていました。
チェーン店のドンクが、ちょうどマーガリンのパン(さわやかな食卓)とバターのパン(パンドミ)を販売していましたので、パスコ、ヤマザキの2種類に加えて、ドンクの2種類を食べ比べしてみます。
製品 | 価格 |
パスコ | 343円 |
ヤマザキ・ロイヤルブレッド | 209円 |
マーガリン使用食パン(ドンク・さわやかな食卓) | 1本961円 |
バター使用食パン(ドンク・パンドミ) | 1本1,144円 |
パスコの成分表示
スーパーで売っているパンの中では原材料がシンプルなのが特徴です。小麦も国内産だそうですし、配合量は不明ですが、バター入りマーガリンを使っていて、コストを意識しつつ可能な限り原材料に気を遣おうという意識はうかがえます。
小麦粉(国内製造)、砂糖、バター入りマーガリン、パン酵母、食塩、米粉、醸造酢、(一部に小麦・乳成分を含む)
ヤマザキの成分表示
「よくわからない添加物が大量に入っているパン」という印象なので、実はヤマザキのパンを食べたことはありません。レストラン等でもしかしたら食べているかもしれませんが、少なくともパッケージを見れる状態で食べたことはないです。
小麦粉(国内製造)、糖類、バター入り小麦粉調製品、マーガリン、パン酵母、食塩、発酵種、脱脂粉乳/乳化剤、イーストフード、V.C、(一部に乳成分・小麦・大豆を含む)
「イーストフード」「乳化剤」と、自然食品派の人から嫌われる要素がてんこもりですね、、、。この二つに共通の特徴は、具体的にどのイーストフード・乳化剤なのかを表示する義務がなく、かつ、イーストフード・乳化剤として使用される可能性がある成分に危険性が指摘されるものも含まれることです。
原材料の安全性はともかく、ここで挙げた5製品の中で断トツに安いですね。味がおいしいのに激安ということはあまりないですから、味の方も値段相当ということが予想されます。
ドンク製品の成分表示
パンドミの成分表示です。
小麦粉(国内製造)、牛乳、バター、加糖れん乳、砂糖、食塩、パン酵母/増粘剤(アルギン酸)、ビタミンC(一部に小麦・乳成分を含む)
スーパー系のパスコとヤマザキには入っていない、牛乳が入っていますね。今回初めて知ったのですが、パンを作る際に水の代わりに牛乳を入れるとミルクの風味になり、生クリームを入れるとしっとりするそうです。
一方、こちらはさわやかな食卓の成分表示です。原材料が、パスコに近くなっていますね。
小麦粉(国内製造)、砂糖、マーガリン、食塩、バター、脱脂粉乳、デキストリン、パン酵母/加工でんぷん、ビタミンC(一部に小麦・乳成分を含む)
食べ比べ結果は、、、
おいしい順に並べ替えると、このようになりました。やはり価格順になりましたね。
1 | バター使用食パン(ドンク・パンドミ) |
2 | マーガリン使用食パン(ドンク・さわやかな食卓) |
3 | パスコ |
4 | ヤマザキ・ロイヤルブレッド |
ドンクのパンドミとさわやかな食卓だと、さわやかな食卓の方が甘い感じがしました。成分表示でも砂糖が上に来ていますからね。なので、甘いのが好みの方は、こちらの方が好きかもしれません。
パスコは無難な感じで、コストを抑えて毎日食べるにはよさそうでした。筆者の家もドンクは高いので基本はパスコです。
マーガリンとバターの違いはわからない
パンの味の違いでバターとマーガリンを見分けるのは、筆者には難しかったです。先ほどのパン職人さんのブログを参考にすると、小麦の重量を100としたとき、バターは4しかないそうです。
そのため、小麦の味や焼き方の違いの方が、味に影響している気がします。
バターやマーガリン直接食べるとさすがに味の違いはわかりますが、パンの原料として考えると、バターかマーガリンかを気にする主な理由は、トランス脂肪酸なのではないかと思います。
トランス脂肪酸の少ないマーガリンもある
液体の植物性油脂を固体のマーガリンに加工する過程で発生するトランス脂肪酸は、必ず発生しますが、加工の仕方で量を減らすことができるようです。そのため、生協ではトランス脂肪酸を少なくしたマーガリンが販売されています。
マーガリンNG生活は大変
マーガリンは便利な面もあるため、特に家庭で使う場合は、単なる「バターの安い代用品」というわけではないんです。
朝は忙しいのでそんなに朝食に時間をかけられませんよね。マーガリンは柔らかいので、パンにさっと塗ることができますが、同じことをバターでやろうとしたら大変です。
バターを料理だけに使っているご家庭は、バターを箱に入れたまま保管し、必要なだけ包丁で切る方法でも使えますが、バターを何かに塗る用途で使っている家庭では「バターケース」というものに入れているんです。
パンに「マーガリンを塗る」場合はささっとできますが、バターを塗る場合は、このバターケースに入った固い状態でフォークなどで切り出し、パンに塗る前に常温に戻して柔らかくしておくのです、、、。
「パンにおいしくバターを塗る方法」みたいなサイトでは、常温に戻してから塗る方法は推奨されますが、実際朝そんな時間はないので、固い状態のままパンの上に力づくで押し付けてパンの熱で溶かしたりします。
そんなときはマーガリンが使いたくなりますよね。
トランス脂肪酸の少ないマーガリン
生協も、利便性との兼ね合いで商品を作っています。なので、健康に悪いといわれているパーム油を使ったポテトチップスや、トランス脂肪酸が含まれるマーガリンなども、「パーム油使用」や「トランス脂肪酸含有量」を明記した上で販売されています。
こういった製品が絶対NGのガチ自然派は、非常に数が少ないコメ油使用のポテチを買ったり、マーガリンの方が便利な場面でがんばってバターを使ったりしていますが、生協利用者の中でもそこまででもない人は普通にポテチやマーガリンを買っています。
生協のマーガリンがどれくらいトランス脂肪酸が少ないかというと、生活クラブのマーガリンだと、トランス脂肪酸含有量は100g当たり0.5gだそうです。
内閣府の調査では、市販のマーガリン100グラムには平均して5グラムのトランス脂肪酸が含まれているそうで、生活クラブのマーガリンは確かにトランス脂肪酸が少なくなっていますね。
バターかどうかを気にする人が少ない
スーパーに並ぶ大手メーカーの商品の中にも、一つくらいバターのパンがあってもいいように思いますが、ありません。
これは、消費者があまりその点の違いに興味がないということなのではないかと思います。
ちなみに、トップバリュ製品は、(口コミでは全体的に評判が悪いようなのでおいしいかどうかはともかく)、メジャーな自然派食品は一通りそろっています。パンについても、トランス脂肪酸を避けてオリーブオイルを使った食パンを出しています。
小麦粉(国内製造)、砂糖、オリーブ油、食塩、パン酵母、発酵風味料(小麦・乳成分を含む)、小麦たん白
「発酵風味料」というのが気になります。トップバリュはなんかいろいろごまかしているような気がして好きになれないのですが、トランス脂肪酸は嫌だけど毎日高いパンばかり食べられないという方にはいいかもしれません。
また、筆者の家のように、割り切ってマーガリン以外の原料は問題ないパスコを選ぶという方法もあります。