自然派食品の中には、添加物を使っている・使っていないの違いだけではなく、製法そのものが全く違うものもあります。ノンホモ牛乳などがそうなのですが、味がおいしいので大好きです。
しかし、中には自然派製法で作るメリットはあるのか疑問に思ってしまうものもあります。その一つが、海水を日光に当てて作る塩である「天日塩」です。
安い塩の10倍近い値段で売られていることもありますが、その値段に見合う価値があるとは思えないのです。今回は、その理由について書いてみます。
精製塩と天然塩の違い
塩には、大きく分けて精製塩と天然塩の2種類があります。
塩の主原料は「塩化ナトリウム」という成分なのですが、この成分だけを工業的に抽出したものが精製塩です。一方、天然塩は海水を煮詰めたり天日干しにしたりして作りますので、海水に含まれるミネラルなども含まれます。ミネラルが含まれているかどうかが一番の違いです。
天然塩は、製法によってさらに天日干しと釜焚きに分けられます。
天日干しは、太陽の力で海水を蒸発させるものです。一方釜焚きは、釜に入れて煮詰めます。ミネラルはどちらにも含まれます。
天日塩・精製塩の価格の違い
手間のかかり方が違いますので、精製塩→釜焚き塩→天日塩の順に高くなります。
同じ海水を使用して、釜焚き塩と天日塩の2商品を販売している塩のブランド「海の精」と精製塩、スーパーでよく見かける「伯方の塩」の100グラムあたりの価格を比較してみます。
商品名 | 100グラムあたりの価格 |
海の精(釜焚き塩) | 約270円 |
海の精(天日塩) | 約380円 |
精製塩 | 約15円 |
伯方の塩 | 約45円 |
精製塩が1キロ149円と爆安なので、海の精(天日干し)と比較すると20倍以上の差がついていますね。
この精製塩は「公益財団法人塩事業センター」というところが販売しているものなので、特に安いのかもしれません。現在は自由化されていますが、塩は国が専売していた時代が長く、現在も営利企業ではない「公益財団法人塩事業センター」が塩を販売しているのです。
さすがにこの塩はスーパーでも人気がないので、「普通の塩」との価格比較をするなら、スーパーでよく売っている「伯方の塩」の方がいいでしょう。
ちなみに、「伯方の塩」は「再製加工塩」と呼ばれるもので、海外の塩に日本の海水を混ぜて作った塩です。ミネラル分のほとんど含まれない塩の結晶を海外から輸入し、それに日本の海水を混ぜて水分を飛ばすことで作っています。
海水の塩分濃度は3%ほどですが、塩に海水を混ぜて乾燥させる場合は3%よりもっと高い濃度から乾燥させることになります。そのため、海水をそのまま煮つめて塩をつくる場合と比べてコストを下げることができるのです。
天日塩は高級加工品に使われる
天日塩はそのまま買っても高いのですが、高級な加工品に使われることがあります。
原材料に気を遣う系のメーカーでもほとんどは、「海水から作った塩」というアピールのみです。天日塩と明記していなければ、これは値段の安い釜炊き塩のことだと思われます。
しかし、一部の超高級の加工品には天日塩が使われています。
例えば、無農薬にこだわった野菜宅配サービスの「坂ノ途中」では、天日塩を使用した醤油が売られています。
Amazonでも森田醤油店の生醤油が販売されていましたが、150ml×3本セットが3043円と非常にお高くなっています。
生醤油なので普通の醤油よりお高い製品という事情もあるのですが、それにしてもすごい値段ですね。
天日塩を使っているほかにも、このような特徴があるそうです。
島根県産丸大豆、国産小麦、あらびき天日塩を原料に杉木桶で三年熟成させた本格派醤油の火入れをしていない生の風味をお楽しみいただけます。
天日塩のメリット・デメリット
天日塩は伝統的な製法のように感じてしまいますが、実は違います。雨や湿気の多い日本は天日で塩を乾燥させるのに適した気候ではないので、昔ながらの製法はむしろ釜焚きだそうです。
いろいろ工夫して最近天日塩ができるようになったそうなのですが、釜焚き塩でもミネラルは入っているわけなので、100グラム110円も値段の違う天日塩をわざわざ買う理由がよくわかりませんでした。
「太陽の力だけで作った」ということでイメージを上げて売っているだけのように見えてなりません。
そこで、天日塩のメリット・デメリットを詳しく調べてみました。
①栄養面は一長一短
②味には違いがある
③効率が悪い
栄養面は一長一短
釜焚き塩と天日塩の2商品を販売している塩のブランド「海の精」の価格の違いは、100グラムあたり約110円です。
商品名 | 100グラムあたりの価格 |
海の精(釜焚き塩・あらしお) | 約270円 |
海の精(天日塩・ほししお) | 約380円 |
この値段の違いとして、天日塩の方がミネラルが豊富なのであれば一応メリットはあると納得できます。しかし、100グラムあたりの成分を見ると、マグネシウムとカリウムについてはむしろ釜焚きの方が多いのです。
成分 | 釜焚き | 天日塩 |
マグネシウム | 700mg | 525mg |
カルシウム | 400mg | 525mg |
カリウム | 240mg | 157mg |
味には違いがある
海の精公式サイトによると、味が違うそうです。
「ほししお」は「あらしお」に比べて、カルシウムが多めで、マグネシウムが少なめですので、「ほししお」の方が甘さがより多く感じられ、旨さとコクはややひかえめに感じられます。
また、「ほししお」は非加熱結晶塩ですので、用途によって、微妙な磯の風味が感じられます。
その味の違いによって、向いている用途も異なるそうです。
この2つの特色を生かした使い方として、お吸いものがあります。甘さがあって、あっさりしていて、それでいて濃いめの風味がある、上品な逸品が味わえます。
「ほししお」は粒子があらく、ニガリ成分が結晶の内側にも液胞として入っています。結晶のままなめると、ゆっくり溶けてマイルドに感じられるだけでなく、ニガリの旨味とコクが少しずつ味わえます。
この特色を生かした使い方として、飾り塩があります。塩の結晶のかりかりした食感が楽しめるだけでなく、徐々に溶けていく「ほししお」のおいしい塩味が楽しめます。お菓子だけでなく、お酒のおともにも最適です。
パンやクッキーの生地に結晶のまま練り込むと、結晶は溶けても塩味の濃淡差は残りますので、「ほししお」のおいしい塩味の変化を楽しめます。
味に違いがあるそうなので、「太陽の力だけで作った」ということでイメージを上げて売っているわけではないことはわかりました。
ただ、この違いのためだけに100グラムあたり110円高くなると考えると、個人的には海の精(釜焚き塩・あらしお)の方でいいかなと思いました。
効率が悪い
精製塩→釜焚き塩→天日塩の順に価格が高くなる理由は手間がかかっているからです。
こちらは海の精(天日塩・ほししお)の作り方です。
最初に、ネット架流下式塩田に海水を繰り返して濃縮する「天日濃縮」工程が入っています。高いところから低いところに流して風を当てることで蒸発させる方法です。精製塩や「伯方の塩」などの「再製加工塩」であれば、この工程は必要ありません。
「太陽や光の自然エネルギーを利用して」と書くとイメージがいいですが、高いところから低いところに水を流すために電気の力もかなり使っているような気がします。
「天日濃縮」の後、海の精(釜焚き塩・あらしお)の方は釜焚き工程に入りますが、天日塩は天日結晶と人間による攪拌が入ります。この攪拌工程の人件費のために大きな価格差が出てしまっているのではないかと思います。
天日塩の方は人件費がかかっているために価格が上がっている面が大きいようですが、釜焚き塩だとエネルギー効率が悪いというデメリットもあるようです。
日本が気候的に塩づくりに向ていないために釜焚きをしているのですが、気候的にもっと太陽の光が当たるところであれば、広いスペースに海の水を引いて放置するだけで塩の結晶ができるそうです。そのような塩を少し溶かして作る再製加工塩であれば、もっとエネルギー効率よく作ることができるそうです。
こちらは再製加工塩である伯方の塩公式サイトの説明です。
海水の塩分濃度は3%程度です。海水をそのまま煮詰めて塩をつくるには多くの燃料が必要となります。伯方の塩は、太陽熱や風といった自然エネルギーを利用して結晶させた天日塩田塩を瀬戸内海の海水で完全に溶かし、濃い塩水をつくっています。そうすることで、海水をそのまま煮つめて塩をつくる場合と比べてCO2の排出量を削減(※2)し、環境に配慮した塩つくりを行っています。
※2 比較には、天日塩田塩の製造、日本までの運搬時にかかる燃料、塩をつくる時に使用する電力など全てを含んでいます。
エネルギー効率が悪いとエコではないので、エコを気にする人にとっては釜焚きの天然塩はあまりよくないということになってしまいますね。
天日塩はスーパーで買える?
日本製の天日塩はスーパーではまず買えないです。塩にこれだけの値段を出す人が少ないからだと思われます。
スーパーで売っている塩は4種類
スーパーに売っている塩は、だいたいこの4種類のようです。
- 公益財団法人塩事業センターの作った塩化ナトリウム純度の高い塩
- オーストラリアなど海外産の天日海塩
- 国産の海水100%の塩
- 再製加工塩
「赤穂の天塩」など、名前がいかにも国産天日塩のように見えるものがスーパーに売られていることもありますが、それほど高くない値段で売られているものは、天日塩といっても外国産のことが多いです。
外国産だと、同じ天日塩でも、ミネラル分が少なかったりすることもあるので、気になる方はパッケージの栄養成分を確認してみてください。
「伯方の塩」にしろ「赤穂の天塩」にしろ、紛らわしい商品名ではありますが、消費者に純国産と誤認させる意図でこの名称にしているのではないようです。
今は自由化されましたが、昔は塩が政府によって専売されていました。専売時代には一定の制約のもとにほかの塩を作ることが認められていましたが、その際の条件に以下のようなものがあったそうです。
国がメキシコやオーストラリアから輸入していた「原塩(天日塩田塩)」を利用すること。海水から直接塩をつくってはいけない。
伯方の塩公式サイト
昔はそもそも海水から塩を作るのは禁止されていて、なんとか国産に近づけようとした結果こういう塩になったということですね。
海の精を作っているメーカーも、もともとは同じ形で再製加工塩を作っていましたが、その後100%日本の海水を使った塩に以降したそうです。
高めの宅配食材サービスでは買える
宅配食材サービスとしてはオイシックスが有名ですが、このオイシックスの運営会社「オイシックス・ラ・大地株式会社」は、ほかにも「らでぃっしゅぼーや」と「大地を守る会」という別ブランドの宅配サービスを運営しています。
このらでぃっしゅぼーやと大地を守る会では、どちらも海の精が販売されています。お試しセットに入っているとは明記されていないのですが、私がお試しセットを購入したときはどちらもついてきたので、おまけでついてくる可能性は高いと思います。
確実というわけではありませんが、海の精を食べてみたい人は、この2つのお試しセットを注文してみるといいかもしれません。
大地を守る会は全体的に高いので、らでぃっしゅぼーやの方がおすすめです。
天日塩は買っていない
ミネラル分は釜炊きでも含まれるので、天日塩のメリットは味の特徴のみのようです。それなら買う気は起きないため、我が家では買っていません。海の精そのものが高めなので、100%海塩ではあるものの、もっと安いものを買っています(笑)
釜焚きの方が日本の気候に合った伝統的な作り方なので、そちらで満足です。さらにいうなら再製加工塩でもいいんじゃないかと思っているくらいです。
輸入した塩にはミネラル分があるものとないものがあり、伯方の塩などが使っている現塩にはミネラルがないので日本の海水を混ぜているようです。
しかし、ゲランドの塩などのもともとミネラルを含むものもありますし、そういうものなら輸入塩をそのまま使ってもいいのではないかなと思います。