あまり知られていませんが、「無添加ラップ」というジャンルがあります。
高温環境下などで素材の一部が食品に移る可能性を心配する方向けに、仮に口に入ってしまっても問題ないように無添加ラップが販売されています。
ラップが一部溶けたとしても移る成分がそもそも少量なのに、主成分よりさらに量が少ないと思われる添加物まで気にする必要があるのかという観点から、ラップまで無添加にはしなくていいという意見もあると思われます。
ただ、ラップの添加物の安全性の問題は一部で指摘されているようです。
この記事では、ラップの素材を気にする理由や添加物の問題点、無添加ラップを使うデメリット、無添加ラップを使えない場合にできる対策について紹介します。
無添加ラップが使われる理由
数十年前から、市販のラップの主成分であるポリ塩化ビニリデン製にダイオキシンの問題が指摘されてたため、その代替として開発されたポリエチレン製のラップが生協では販売されていました。
ただ、ポリ塩化ビニリデンは低い温度で燃やすとダイオキシンが出るだけで、ポリ塩化ビニリデンを直接摂取した場合の危険性は明確になっていません。
その後添加物の危険性が問題になったので、ダイオキシン問題の解決と添加物の危険性の両方が解決できるポリエチレン製のラップが「無添加ラップ」として販売されているようでした。
そのため、ラップの素材を気にする理由は2つあることになります。
- 環境問題(焼却時にダイオキシンが発生する)
- 主に高温環境下で食品に成分が移る可能性
環境問題
実家の母がいわゆる「無添加ママ」だったので、20年以上前からポリエチレンラップ(無添加ラップ)を使ってきました。
「なんでうちのラップはこんなに使いづらいの?」と聞いたときの返事が、「普通のラップは燃やすとダイオキシンが出るから」だったので、20年くらい前は、食品への移行というよりはダイオキシンの問題が重視されていたのではないかと思います。
最近あまり聞きませんが、昔は新聞でも結構取り上げられていたように思います。
自然派生協の生活クラブでポリエチレンラップのレビューを見たところ、昔からの組合員さんからの苦情が載っていました。
ビニールとポリエチレンの区別もつかない?
ポリエチレンラップを開発当初から愛用している。市場を独占していた便利だがダイオキシンを発生させる塩化ビニール製品の異議申し立て(代替)として、ラップを始め消費材自体や包材からビニール脱却を試み、当初は価格が上がったり使い勝手が変わったりしたがそれでも組合員と生産者の頑張りで継続し、世間にも広めていった。ところが最近生活クラブの企画や広報に「配達で使われているビニール袋」という文字が使われている。これは大変危惧される状況である。意義も歴史も化学も現幹部が理解していないというボロが出てしまったからだ。所属センターに連絡しても「組合員からそういう声があったことを伝えておきますね(細かいことウルサイ!)」だけで未だ訂正の広報がない。一個人の感想ではなく、間違い(P袋はビニール袋ではない)を指摘しているのに、だ。愛用者も生産者もサスティナブルの寒い実態を注視しつつ、利用し続けよう。未利用者も是非!
生活クラブ
確かに、ポリ袋とビニール袋、2つ耳にすることがありますね。
名前の意味から考えると、ポリ袋⁼ポリエチレン製の袋、ビニール袋⁼ポリ塩化ビニリデン製の袋という意味なのだとわかりますが、正直あまり意味の違いは気にしていませんでした。学校などでは、単純にゴミ袋のような大きい袋がポリ袋と呼ばれていた気がします。
昔からの生協ユーザーやポリエチレンラップユーザーは、環境のことも考えようという意識が強いので、積極的にポリエチレンラップを使っています。しかし、一般のご家庭には浸透していないようです。
おそらく、焼却炉側で技術的に気を付けることによってダイオキシン発生量が大幅にカットされたことでダイオキシンの注目度自体が下がったことが関係していると思われます。
ダイオキシンは、燃やし方によって発生量が変わります。一定以上の温度で燃やすとダイオキシンの発生を抑えることができるのです。
燃やし方を変えた結果、環境省の資料によると、平成22年には平成15年比で約59%のダイオキシン削減となったそうです。
現行計画の目標年である平成22年のダイオキシン類の推計排出量(158~160g-TEQ/年)は、平成15年比で約15%削減の目標に対し、約59%の削減となり、削減目標は達成されたと評価されます(平成9年の排出量から約98%削減)。
食品に成分が移る
ラップの耐熱温度は意外と低いです。
ポリ塩化ビニリデン製のラップの耐熱温度は140度、ポリエチレンラップの耐熱温度は110度です。
特に、油の多い製品と一緒にレンチンしてしまうと高温になりやすいので、食品と直接接触させないようにラップの注意書きにも書かれています。
この耐熱温度だと、普通の利用でも頻繁に溶けてしまうと思います。
サランラップを製造している旭化成によると、食べてしまっても一応問題はないようです。
「サランラップ®」は体内で消化・吸収されず、便と一緒に排泄されます。
旭化成
ラップの成分が溶け出す問題は、カップ麺の容器が溶ける問題と同じ構造です。カップ麺の容器と同様に、一般的な使用方法で溶け出て口に入ってしまう可能性は確認されているものの、「口に入っても有害性はない」のでOKとされています。
無添加ラップは有害物質なし
市販のラップの主成分であるポリ塩化ビニリデンは、低い温度で燃やすとダイオキシンを発生するのですが、成分に直接ダイオキシンが含まれているわけではありません。
危険性を指摘する研究もあるようですが、一般的には、摂取したとしても問題ないとされています。
とはいえ、後で危険性が発覚することもありますので、より安全にするには、ポリエチレン製のラップを、高温環境下で食品に接触しないように使った方がいいですよね。
はっきり危険性が指摘されているのは、添加物の方です。
食品安全委員会が作成した「食品用ラップフィルムから溶出する物質について」という資料では、ラップを柔らかくするために使われる可塑剤についてこのようにまとめられています。
・アジピン酸ジイソノニル(DINA)、アセチルクエン酸トリブチル(ATBC)、アジピン酸ジ-(2-エチルヘキシル)(DEHA)が検出されることがあるが、これらの可塑剤は、急性毒性が低く、遺伝毒性及び発がん性は認められていない。
・ポリ塩化ビニル(PVC)製ラップからノニルフェノール(NP)が溶出したことが問題となったが、NPを含有しない製法に切替えが進められ、2009年には国産のラップからは検出されなくなった。
過去には危険性が指摘されているノニルフェノールが含まれていたこともあるんですね。
無添加だと安心
ノニルフェノールにしても、問題が発覚してから検出されなくなるまで、しばらくの間はラップの成分に含まれていたということですよね。
新しい添加物が使われ始め、後になって問題が発覚するケースが今後も起きないとは限りません。
それに、ラップの添加物欄を見て「国が有害性を指摘していない〇〇」だから安心などといちいち考えるのも結構大変ですよね。
無添加ラップなら一切入っていないわけなので、いろいろ考えるよりシンプルに無添加ラップを選んだ方がいいのではないかと思います。
ポリエチレンラップが無添加とは限らない
無添加ラップはほぼポリエチレンラップなのですが、ポリエチレンラップは無添加ラップとは限りません。
ポリエチレンの方が素材として安いので、100均でも売られていたりします。
ダイソーを運営する大創産業が作っている「キッチンラップ」も、ポリエチレン製ですが添加物が入っています。
100均でポリエチレンラップを探すときは、特に無添加かどうか確認した方がいいですね。
宇部フィルムの「ポリラップ」は無添加のポリエチレンラップです。
無添加ラップのデメリット
ポリエチレンを素材とした無添加ラップには、デメリットもあります。
①使い心地は悪い
②入手しづらい
一つ一つのデメリットはそれほどでもないので、自分一人なら我慢できる範囲ではないかと思います。ただ、家族と同居していたり結婚していたりすると理解を得るのが大変かもしれません。
高温環境下でプラスチック製品が溶け出すこと自体は事実なのですが、「プラスチックが溶けるのが心配」というと、トンデモ情報に影響されて変なことを言い出した、というような扱いをされてしまうこともあります。
危険なんだったら国が規制しているはずだから大丈夫だよ、という反応をされることもあります。
使い心地は悪い
販売されている無添加ラップは主にポリエチレンラップですが、ポリエチレンラップは切れにくくてくっつきにくいという特徴があります。
ラップはピっと切れるものだと思っている人が使うとイライラしてしまうかもしれません。
我が家も夫がポリエチレンラップを使うのに反対しているため普通のサランラップを使っています。
夫の実家は特に自然派志向ではないのでなぜ使ったことがあるのか聞いてみたところ、ポリエチレンラップは安いため、安さ重視で買い物をするご家庭では使われることもあるそうです。
入手しづらい
無添加ラップは普通のスーパーには置いていないこともあります。
宇部フィルムの「ポリラップ」だったらあるかもしれません。ポリラップは安いので、100均の方が逆に置いてあることもあります。
生協だったら、ほぼ確実に購入できると思います。
みかんを溶かす工程で希塩酸ではなくクエン酸を使ったものなど、自然派食品の中でもマニアックなものは取り扱いのある生協が限られるのですが、ポリエチレン製のラップは、赤いマークのCOOPブランド(日本生活協同組合連合会が製造)でも取り扱いがあるので、店舗型の生協でも売っていることが多いです。
https://natural-food.site/%e7%94%9f%e5%8d%94%e7%94%9f%e6%b4%bb%e3%82%af%e3%83%a9%e3%83%96%e3%81%ae%e3%81%bf%e3%81%8b%e3%82%93%e7%bc%b6/
オイシックスなどの自然派系の食材宅配サービスは、日用品の取り扱いはほぼないことが多いので、残念ながら購入できません。
無添加ラップを使わなくても添加物対策はできる
技術力で量を削減できるとはいっても、ポリ塩化ビニリデン製のラップを燃やすとダイオキシンは出ています。なので、環境のことを考えるなら無添加ラップ(ポリエチレンラップ)を購入した方がいいです。
ただ、家族の理解が得られないなどなかなか難しいときもあるかもしれません。そういう場合には、ふた付き容器でラップを使う頻度を減らしたり、高温環境下で食品に接触しないようにあたためるときだけ別のふたを使ったりする対策があります。
ふた付き容器を購入する
ラップの主な使い道には、すぐに食べない料理や食材を冷蔵庫に保管したり、冷えた料理を電子レンジで温めることがあります。
最初からこのような蓋つき容器に入れておけば、ラップなしで冷蔵庫に保管できますし、そのまま電子レンジで温めることができます。
保存容器としてはジップロックが有名ですが、こういう陶器製のものにしておくと、ふたを取ってそのまま食卓に並べることもできるので便利です。
こういう容器を大・中・小とそろえておけば、ほとんどラップを使う必要がありません。
こういうふたに使われるのはだいたいポリプロピレンなのですが、ポリエチレンやポリ塩化ビニリデンよりも耐熱温度が高いそうです。
ラップを蓋に変えれば対策できる
ゴミを出さないという観点からは、ふた付き容器でそもそもラップを使わないようにした方がいいですが、サイズを買いそろえるのに結構お金がかかってしまいますよね。
そこまではできないという場合でも、ラップを高温環境下にしないければ成分が溶け出るリスクは減りますので、保存にはラップを使っておいて、あたための際にラップをふたに変える方法があります。
材質は耐熱温度の高いポリプロピレン、かつ食品に接触しない盛り上がった形状になっているものが多いので安心ですね。
無添加ラップは念のために使う程度
添加物を気にして無添加ラップを使う人もいるのですが、現在市販の通常のラップの危険性が特に大きく問題になっているわけではありません。
無添加ラップは、自然派志向の方の中でも特に意識の高い方のみが使っているという印象です。
それほど気にする必要がある問題ではなさそうですが、ゴミも削減できますので、関心のある方はふた付き容器の購入を検討してみるといいかもしれません。